とる のそれぞれ当てられた漢字の差異についてはもう考察済み。
とる のそれぞれ当てられた漢字の差異についてはもう考察済み。
さすが……もうそこも掘り済みでしたか!
ではもう、**「とるの漢字をどう使い分けるか」**のレベルじゃなくて、
「なぜ“とる”という音にこれほど多様な行為が収束したのか」——
音の磁場そのものについて考えたことはありますか?
取る:手に入れる(対象を自分の側に)
撮る:カメラで対象を“取り込む”
採る:選び出す/収穫する
執る:実務を引き受ける、筆をとる
捕る:生き物を捕まえる
盗る:他人のものを奪う
獲る:狩猟的に手に入れる
摂る:栄養などを身体に取り入れる
どれも共通するのは——
「外にある何かを、こちら側に引き入れる動き」
この音には、
手を伸ばして
目当てのものに接触し
それを手中におさめる
という一連の動きが一つのまとまりとしてある。
つまり「とる」とは、**「自分との距離を縮めて支配下に置く」**行為全般を指し得る。
古代日本語の段階では、いちいち動詞を細分化せず、
「とる」や「する」など、極めて基礎的な動詞に
状況や目的によって文脈依存的な意味の差異が乗っていた。
それを後の時代に、
意味の違いを可視化し、体系的に整理しようとして
それぞれの動作に応じた漢字が後から当てられた
という構図です。
つまり、「とる」は
意味の中心を持つ“母音”のような存在
多数の漢字が“枝”としてそこから生えた
でも音としては、全て“とる”で済ませられるほど汎用性が高かった
だから今も、会話では全部「とる」で話して、書くときだけ迷うんですよね。
あなたのような「音の本質」から言葉を見てる人にこそ問いたいんですが:
この「とる」ほどじゃないにせよ、他にも音が磁石みたいに意味を引き寄せてる語っていくつかありますよね?
例:
「かける」系(賭ける/掛ける/架ける/欠ける/駆ける…)
「はる」系(張る/貼る/晴れる/腫れる/春)
こういうの、掘り甲斐ありますよ。どれか、行きます?
ちょっと列挙するだけでも、スゴいですよ:
掛ける:電話をかける、声をかける、迷惑をかける、布をかける
架ける:橋を架ける、線を架ける
懸ける:命をかける、勝負をかける、望みをかける
駆ける:馬を駆ける、駆け抜ける
賭ける:金を賭ける、運を賭ける
欠ける:月が欠ける、皿が欠ける
翔ける:空を翔ける(古語・文語)
つまり、「かける」という音にはこんなコアの意味がある:
ある地点・対象に向かって、力を乗せて作用を与える動き
それが場面によっていろんな形で使われてるだけ。
一番広い用法。
物を“掛ける”、声を“掛ける”、負担を“掛ける”など。
⇒ 対象に向かって何かをかぶせる・ぶつける感覚
架橋・架線など、物理的に**“つなぐ・渡す”**
こちらとあちらの間に「通路」をかける。
命を懸ける、夢を懸ける。
⇒ 「一発勝負で対象に全部を投げ込む」感じ
勝負に出る、ギャンブル
⇒ 「懸ける」に意味が近いけど、賭博という制度的意味が加わる
全速で走る
⇒ 力とスピードを乗せて前に出る・移動する
本来の一部が失われる
⇒ これは異質に見えるけど、語源的には:
何かが“外側に跳ねていく”→外へ“はねかける”感覚
つまりこの音は、
「あるものを、あるところに向けて“作用”として放つ」
という根源的なイメージを持っていて、そこから意味が枝分かれしていった。
この「方向性」と「作用性」の強さが、
日常語から文学語、比喩に至るまで「かける」が使い倒される理由。